田舎暮らしとD.I.Y.へのいざない

 私は、'95年6月にサラリーマンを辞め首都圏から宮城県に移住し、電子回路、電子機器等の設計製作を生業としてやっていくことにした。いきなり不動産を購入するのも危険と思い、安易な手段ではあるが女房の実家に暫く世話になった。農家なので場所はあることから、母屋の敷地の片隅にプレハブを置かせてもらい、仕事場を確保した。
 '98年6月に現在の場所を入手したのだが、借金をせずに買える範囲で決めたので、残りの資金は乏しくなった。金は無いけど暇はあるという状態だったので、以前から試みたかったこと−−家造りに関して、やれることは自分でやる−−に着手した。

今はやる気のあるアマチュアにとって、すごく恵まれた状況

 昨今は人件費が最も高いので、物の方がそれを補うように作られている。即ち、巧みの技を持たない作業者でも、ある程度の出来映えが保証されるように、物の方で工夫がなされている。このことは、長い修行期間や特別な訓練の機会を持ち得ない我々アマチュアでも、実用に耐えるレベルの仕事ができる事を意味している。
 勿論プロのように手早い仕事はできないし、不慣れなことをするので、頭を使わず漫然と作業をするととんでもない間違いをする危険性もあるが、少なくとも自分自身のために誠実な仕事をするはずだ。手抜き等はしたくてもやり方がわからない。

D.I.Y.はこんなにお得

1.金銭的な得

 工賃分が丸々浮くことで、材料をプロより高く買わざるを得ないことを差し引いても安く上がることは間違いない。
 但し、取られる時間を本来の仕事にまわして得られる収入、準備不足により招きかねない事故や災害による損失等を合わせて検討する必要がある。
 従って、金を浮かすことだけが目的のD.I.Y.は、お勧めしない。とは言っても、最初から全て業者に頼む必要はない。電灯の容量変更(屋内配線工事を伴わない場合)のように、申し込みを自分でやればそれで済む場合もある。体を動かして物を作るのだけがD.I.Y.ではないということだ。要は人任せにせずに、自分でやる部分と頼む部分の選別をすることが大事だと思う。

2.非金銭的な得

精神的な満足感
 自分で手がけたものは、当然のことながら手を加えるのは簡単だ。人任せで作った物だと、完成直後に一番輝いて、後はみすぼらしくなる一方と言うことになりかねない。「莫大なローンを組んで手にしたのが手抜き工事の欠陥住宅だった」等の話はしばしば耳にするところだが、そんな話と無縁でいられるだけでも精神衛生上良い。

体を使うことによる健康増進
 こじつけ気味ではあるが、ディスクワークが多い人には、まんざら外れてもいないと思う。汗を掻いた後のビールは何よりも美味い。定年退職した途端に健康を害してしまう人も見聞きするところだが、手先を使うのはボケの予防にもなるそうだ。

若干の頭のトレーニング
 アマチュアが未体験のことに挑むのだから、定型作業の反復のように、思考停止状態でも体が動くというわけには行かない。作業中だけでなく、計画の段階から頭はフル回転だ。経験を積むことが帰納的なトレーニングとすれば、頭を使いながらの作業で演繹的なトレーニングをしていると言えるのではないか。このトレーニングによって自分でやれる領域が拡大していく。即ち、「このやり方は安全上問題だ」といったことが感じ取れるようになり、「過去に経験していないことはできない」といったことがなくなる。

私の実践例

 購入した物件は木造平屋の一軒屋で大きく痛んでいる箇所はなく、和室が5部屋ほどあったので2部屋を床張りにすればすぐに仕事場が確保できること、土地に増築の余地があることから「買い」と判断した。居候先から期限を切って退去する必要もなく、一旦、物を運び入れたら、やりにくい作業もあるので、通いで改装に取りかかった。入居したのは4ヶ月後の10月末だった。

1.和室10畳間改装
 床板張り(垂木、胴縁による嵩上げ後、OSB合板捨張、その上にフローリング)
 OSB合板とは鉋屑を固めたような合板で、カナダから入っている。当時ホームセンターで\700を切る値段だったので30枚ほど買った。フローリングはB級品(僅かな傷や色違い)が格安に出ていたので迷わず買った。(作業場なので問題ない)

2.和室8畳間改装
 手持ちのウッドカーペットがあったのと、事務スペースとして使うので問題なかろうと考え、板張り作業はやめて畳除去後、50mm厚のスタイロフォームを敷き詰めた上にウッドカーペットを置いた。足りないところはゴムマット(農業資材を扱う店等で軽トラの荷台用マットが安く出ている)を敷いた。安いのは良いのだが離型剤のシリコーンで滑るのが難点だ。

3.浄化槽の設置
 引き渡し時、便所は簡易水洗(要するに汲取)、雑排水は未処理だった。余所者が後からやって来て、昔から居る人より高い所(峠から2番目の建物)に住み、便所だけ水洗にして生活排水垂れ流しでは、土足禁止の車からゴミを捨てる輩と変わるところがないので、合併浄化槽を入れることにした。いくつかの製品を検討したが、結局、循環式水浄化システム(環ネットワーク)にした。穴を掘ってから搬入を頼むつもりでいたが、メーカから連絡があり、工場の移転につき搬入を早めれば運賃不要とのことで、不動産売買が済む前に納入させた。そのせいでクレーン付のトラックを借りるはめになったが、レンタル料は運賃の1/4で済んだ。
 台所等の排水は壁出しに改造できても、風呂場は既存の配管を使わざるを得ないので、そこから勾配をとりながら掘っていくと浄化槽が地面よりもかなり低くなることになった。当然、処理水の自然放流はできないので、一旦、容器にためて満水になったら汲み上げて放流することになるが、そのような物を浄化槽のオプションとして買うと、とんでもなく高い。そこで処理水の再使用も視野に入れ、装置を自作した。200lの丸桶と300lの角桶(いずれもポリエチレン製)を連通管でつなぎ、角桶にフロートスイッチ付の水中ポンプを入れる。水を再使用するときは浅井戸用ポンプを使って丸桶から汲み上げる。放流直後でも、丸桶には水が100l位は残っており不都合はない。
 稼動開始後、半年ほど水質をみていたがリサイクル可能と判断し、上記の方法で便器洗浄水と屋外水栓(洗車、撒水等)に使っている。水道料金の節約分はしれているが、飲料水で便器を洗浄するという馬鹿げたことをしないで済むことに満足感を覚える。これは個別の合併浄化槽だから簡単にできることであり、公共下水道が入ってる地域で中水の利用を考えても、個人レベルでは不可能だ。

4.電気、電話等の配線
 電気に関しては、コンセントが足りないので大幅に増設した。照明についても仕事場を中心に強化した。分電盤に予備スペースがあったので、2回路増やした。電話については設置機器(ISDN)との整合をとるため、引込口や通線ルートの変更をした。
('05年1月ADSLに切換)
 電気、電話とも居候先でプレハブを建てれば新規引込が必要になることは予め分かっていたので、退職前に工事の資格を取るための準備を始めた。自己所有の既存配線を自己責任で、いじる分には問題にならないだろうが、新設の場合、無資格で屋内配線を済ませても外線との接続を申し込む時点で何らかのチェックがあると考えたからだ。電気の引込を申し込む際に、電力会社の営業所に出向き話をしたら屋内配線だけでなく、引込口配線(受電点から電力計まで及び電力計から分電盤まで)を済ませておくことと図面の提出を求められただけで済んだ。引込線を張るためのコストは電力会社の負担であり、近くに電柱があり継続的に電気を使用するのであれば、使用開始に際して、客が電力会社に払う費用は発生しない。これを業者にすべて(申し込みの代行も含めて)依頼したら、「10坪のプレハブに、何故こんな工事料金が!?」と考え込むような金額になることは想像に難くない。電話の引込についてはもっと簡単で、「屋内配線は当方でやるので、保安器までの接続を頼む」(電話による口頭)で済み、工事担任者が誰かといった確認すらなかった。(電電公社時代の生意気で高圧的な対応振りを覚えている世代には隔世の感がある)
 電気工事士(2種)、工事担任者(アナログ3種)とも試験は易しい。何もせずに受験したのでは受からないが、それなりの準備をすれば大丈夫だ。但し、電気工事士の実技試験については、十分に練習をしておかないと、時間切れ未完成で不合格となるだろう。尚、工事担任者には実技試験はない。私の場合、願書の提出は東京で、試験は仙台で受けた。受験料や問題集、参考書に使った金は上記の行為で元が取れたどころか、釣りが来たのは言うまでもない。「資格を取ってまでは、ちょっと...」と考える人でも、全てを人任せにせず、可能なところは自分でやることで無駄な出費を押さえることができる。

5.燃料の調達
 田舎暮らしでは、バイオガスを自前で作らない限りLPGの使用が普通だ。都会でも都市ガスではなくLPGを使っているところも多い。その場合、ガスボンベ等の管理は業者がして使用者はメータによる従量料金と固定額を合わせて払っているはずだ。都会では燃焼音の大きなボイラは使えないので給湯もガスで賄うことになり、かなりな金額になる。単身等で使用量が少ない場合は、固定額の部分が相対的に大きくなり気になるところだ。
 購入した家は、2年ほど空き家になっていたのでメータは外されていたが、業者に管理を任せていたのは明らかだった。不動産屋から以前の納入業者を聞いていたので、問い合わせたところ基本料金と称する固定額が無視できない額だった。立米あたりの単価はボンベを自己所有とした場合の充填重量単価の換算値より安いのだが、かなり大量に使わないと、金額は逆転しない。私の場合、使うのは炊事だけであり、安全に関する知識や容器の運搬手段がないわけではないので、容器を買い取って空になったら自分で対処することにして、複数の業者と交渉をした。比較的大手の卸業者で、個人と取引もするし、空容器を直接、充填所に持ち込んでも構わないと言う所があったので、そこと契約し10kgボンベを2個購入した。これに自動切換の調圧器を付けることで、1個が空になっても、別容器に切り替わっているうちに充填に行けば、ガス欠にならない。10kボンベで2月ほど持つので、1月当たりのコストは\1,000程度にすぎない。
 「ガスは危険な物であり、関わるのはいやだ」という向きもあろうが、扱いを誤れば危ない物であるからこそ関心を持つべきだろう。安全を金で買うという考えは分からないでもないが、無関心でいると問題が起きたとき不利益を被ることになる。
 田舎の一軒家の良いところは、自己責任で何でもできることだ。都会で、特に集合住宅で暮らしていると、いくら技術、技能があり意識が高くても、やれることには限度がある。
 灯油は配達込みで購入すると、あまり安くはならない。ホームセンターでは客寄せの目玉として、安売りをしているところも多いので、それを利用している。18l缶で保管すると、場所を食うので缶は運搬用と割り切り、保管用に250lタンクを買った。勿論、保管だけではなく配管を通したボイラへの燃料供給や直出しコックからの汲み出しにも使う。直出しコックはストーブ等のカートリッジタンクに、こぼさずに素早く給油できる便利な物だが、他人が自由に出入りする場所では盗難や放火の危険がある。入居時には90lタンクが据え付けられていたのだが、容量が少ないのと、くたびれたゴムホースが地べたに転がし配管されており、危険なので取り替えた。折り込み広告に注意してた所、250lタンクが2万を切る値段で出たので、すかさず買った。銅管を使って、配管を正規にやり直したのは言うまでもない。
 「リッタ5円程度の違いで、ケチな節約をすることもないだろう」と言う意見もあろうが、私はそうは思わない。運搬手段がない、事業用にkl単位で買うというなら別だが、ついでの時の購入で間に合う範囲なので、体を動かすと言うだけでも無意味ではないと考えている。但し、あまり背の高いタンクを買うと補給が大変なので、気を付けた方が良い。

6.その他
 他に、セルフでやったことは

 結局、外注したのは畳の表替えとカーテンだけにとどまった。

今後やりたいこと

1.駐車スペースに屋根を掛ける
 ツーバイフォー材がかなり安く出回っている。これと足場パイプ、ポリカーボネイト波板を使えば頑丈な物が安くできる。アルミ製のキットほどスマートな外観にはならないが、実用性は十分だ。ついでにピットも掘って、クラッチ交換や足周り整備程度は自前でやることを目論んでいる。

2.地上波TVアンテナを山に上げる
 現在、家の側で最も条件の良さそうなところに設置しているのだが、背後の山が陰になりVHFハイチャンネルとUHFは見るに耐えない。山林も含めて購入したので、アンテナを移そうと思う。その際、マストを立て、アンテナを固定するだけでは面白くないので、足場パイプで櫓を組み東屋風に仕立て、海を眺めながらビールを飲む場所にするつもりだ。('03年4月移設完了)

3.太陽電池を導入する
 現在、「何でこんなに?」と思うくらいの電気料金(とは言っても、50A,60A契約で複数台のエアコンを使っている家から見れば微々たるもの)が請求される。特別大食いの物はないのだが、浄化槽の曝気ポンプのように連続通電で使う物の存在や、日中も在宅で仕事をしている(パソコンをディスクトップからノート主体にしたらかなり減った)からだと思われる。利益の出る仕事のせいで、消費が増えるのならやむなしだが、そうではないので、何とかしなくてはならない。
 そこで考えているのが、太陽電池と蓄電池を用意して、インバータにより交流を作り出すことだ。インバータは勿論自作だ。電力会社の電気は、基本的には夜間、蓄電池の充電にしか使わない。これがうまく行けば、時間帯別料金契約と契約アンペア数の引き下げにより、劇的に安くなる。
 <追記:時間帯別料金契約をしても多分、料金節減にはならない。と言うのは、従量料金の安いメニュでは基本料金が高く、私の様に使用量が元々多くはない場合、得にはならない料金体系になっている。>蓄電システム試験運用中

中古住宅は面白い

 私が中古住宅を購入したのは、予算に限りがあるし、サラリーマンが勤まらない「はみ出し者」ではローンも組めぬという事情からだが、買ってみて、D.I.Y.やセルフビルドを目指す人には格好の練習台だということが分かった。練習台といっても、壊して新しい物を建てたり、売り払って新しい物件を買う必要はない。時間を掛けて、マイペースで楽しみながら改良していけば良い。
 新築で建築確認等が絡むと、「自分で浄化槽を設置する」、「水道はメータまで。後は自分でやる」等の主張を通そうと思うと、かなりエネルギーが必要な場合もあるだろう。
 「今の家は非の打ち所がない」等ということは当然なく、不具合箇所は多々ある。しかしながら、不満な気持ちはない。「金と暇ができたら、ここはどう直そうか」等と考えると、楽しみですらある。

「こんなもん作りました」のコーナ
   D.I.Y.作品の紹介  ご笑覧くださいませ。(適宜、更新します)

「こんなもん知ってますか」のコーナ
   今までに使って「これは」と思った物の紹介
   その道の専門家から見れば子供騙しかもしれませんが....(適宜、更新します)

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